二次創作はどこからアウトなのか|「違法か合法か」に答えられない理由と、制度の実際

重なり合う二枚の半透明の紙と、曖昧な境界

二次創作の話題になると、決まって「結局、違法なのか合法なのか」という問いが立ちます。この記事は、その問いに答えません。答えられないからです。個別の作品が適法かどうかは、事実関係と権利者の意思によって変わるもので、記事が判定できる性質のものではありません。

そのかわり、制度としてどうなっているのかを書きます。公的な資料に何が書かれていて、そこから何が言えるのか。そして、制度そのものが答えていない領域はどこなのか。本記事は法的アドバイスではなく、制度の観測記録です。

「親告罪」という言葉が意味していること

親告罪とは、被害者などによる告訴がなければ検察官が公訴を提起できない犯罪の類型を指します。著作権侵害の罪は、原則としてこの親告罪として扱われてきました。つまり、権利者が動かなければ刑事手続は始まらない、という構造です。

この「原則」が重要です。二次創作の世界が長く成立してきた土台には、権利者が告訴という手段を取るかどうかの判断を握っている、という制度上の事実がありました。第三者が「あれは侵害だ」と考えても、その第三者が刑事手続を動かせるわけではない、ということです。

■ 親告罪であることは「許されている」ことではない

ここは混同されやすいところです。告訴がなければ刑事手続が始まらないことと、その行為に権利が及んでいないこととは、まったく別の話です。権利が及んでいるかどうかと、権利者が実際に権利を行使するかどうかは、別々の層にあります。

親告罪であるという事実は、後者についての話でしかありません。前者について何かを保証するものではありません。

2018年12月30日、何が非親告罪になったのか

この原則には、例外が加わりました。文化庁の公式解説によれば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関連する法整備に伴い、著作権法が改正され、TPP11協定が日本について効力を生じた平成30年(2018年)12月30日から施行されています。

同じ資料で挙げられている改正項目は、次の5点です。

改正項目 内容(文化庁の公式解説による)
保護期間の延長 著作物・実演・レコードの保護期間を70年に延長
一部非親告罪化 著作権等侵害罪の一部を非親告罪とする
技術的保護手段の強化 アクセスコントロールの回避に関する措置
配信音源の二次使用料 実演家・レコード製作者に使用料請求権を付与
損害賠償規定の見直し 立証負担の軽減

このうち二次創作の文脈で常に話題になるのが、2番目の非親告罪化です。改正が議論されていた当時、「同人活動が摘発されるようになるのではないか」という強い不安が広く共有されました。実際に何が起きたのかを、要件から見ていきます。

■ 非親告罪化には3つの要件がすべて必要

文化庁の解説によれば、非親告罪となるのは、次の要件をすべて満たす場合に限られます。

# 要件
1 侵害者が財産上の利益を得る目的、または権利者の利益を害する目的を有していること
2 有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡・公衆送信するか、そのための複製行為であること
3 権利者の利益が「不当に害されることとなる場合」であること

3つのうちどれか1つでも欠ければ、非親告罪にはなりません。この構造が、当時の不安に対する制度側の回答になっています。

■ 二次創作が引っかかりにくいのは2番目

鍵になるのは2番目の「原作のまま」という条件です。文化庁の解説では、同人誌などの二次創作はこの要件を満たさないため、非親告罪化の対象外になると考えられている説明されています。想定されているのは、漫画や小説の海賊版をそのまま販売する行為や、映画の海賊版をそのまま配信する行為です。

言い換えれば、この改正が狙ったのは、原作をそのまま複製して流通させる行為であって、原作をもとに別の表現を作る行為ではない、という整理になっている、ということです。

■ ただし「対象外」は「適法」ではない

ここを取り違えると、話が逆さまになります。非親告罪化の対象外であるということは、従来どおり親告罪の原則に戻るという意味であって、権利が及ばないという意味ではありません。権利者が告訴すれば手続が動きうる、という元の状態がそのまま残っているだけです。

「非親告罪化されなかったから同人は大丈夫」という要約は、制度の説明としては正確ではありません。変わったのは、告訴なしで動きうる範囲がどこまでかという線引きであって、二次創作に権利が及ぶかどうかという論点には触れていないからです。

法律の外側にある「ガイドライン」という

制度の話とは別に、権利者が自発的に「ここまでなら」という目安を公開する動きがあります。二次創作ガイドライン、あるいはファンコンテンツに関する指針といった名前で呼ばれるものです。

この層は、法律の話とは性質が違います。指針は権利者ごとに内容が異なり、改定も撤回もありえます。個別の指針を追いかけるより、この層が制度のどこに位置しているのかを見たほうが、話の見通しはよくなります。

■ ガイドラインが埋めているのは「意思の不明さ」

ガイドラインが機能しているのは、法律が答えない部分についてです。法律は、権利が及ぶかどうかは扱いますが、「この権利者は実際に権利を行使するつもりがあるのか」という問いには答えません。その意思は、権利者本人しか知りません。

ガイドラインは、その意思の一部をあらかじめ書き出したものだと理解できます。作り手にとっての価値は、法的な保証よりも、予測可能性あります。何がまずいのかを事前に知れることそれ自体が、活動を続ける条件になります。

■ ガイドラインは法律ではない

ただし、ガイドラインは権利者が任意に出している文書です。法令ではありませんし、内容は権利者ごとに違い、改定も撤回もありえます。ある権利者の指針が、別の権利者の作品に適用されることもありません。

「ガイドラインがあるから安全」ではなく、「その権利者が、その時点で、その範囲について、意思を表示している」という以上のことは読み取れない。そう読むのが正確だと考えます。

「黙認」という言葉が指している構造

二次創作を語るときに頻出する「黙認」という言葉は、法律用語ではありません。権利者が権利を行使していない状態を、外側から観測した人が呼んでいる名前です。

ここは注意が要ります。権利を行使していないという観測から、権利者が積極的に許容していると読み取ることはできません。行使していないことと、認めていることは、外からは区別がつかないからです。単に把握していない場合も、判断を保留している場合も、外形は同じに見えます。

■ なぜ行使しない選択がありうるのか

権利者が権利行使に踏み切らない理由として考えられるのは、コストと効果の釣り合いです。個々の二次創作を追跡し、判断し、対応する作業には、人的な資源が要ります。一方で、二次創作が作品の話題を広げている側面があるとすれば、権利行使が権利者の利益を増やすとは限りません。

ただし、これは外から見える条件を並べて組み立てた読み方にすぎません。個々の権利者が実際にこう考えている、という話ではないはずです。ここで言えるのは、権利を行使しないという選択にも不合理はない、という程度のことです。行使しない理由を一つに決めてしまうと、それはもう観測ではなく物語になります。

■ 黙認は約束ではない

構造として言えるのは、黙認と呼ばれる状態がいつでも終わりうるいうことです。それは権利者の裏切りではなく、もともと約束が存在していなかったからです。約束がないところで積み上がった慣行は、慣行のままです。

この点を、悲観として書きたいわけではありません。二次創作の文化は、法的な保証がない場所で、それでも長く続いてきました。保証がないという事実を正しく認識したうえで続いているなら、それはそれで筋の通った状態です。危ういのは、保証があると誤解したまま続けることのほうだと考えます。

サークルを単位に見ると、この話はどう見えるか

ここまでの話を、本サイトの視点に接続します。二次創作と著作権の議論は、たいてい「作品」を単位に語られます。この作品は原作のままか、この作品は権利者の利益を害するか、という具合です。

しかし、法的なリスクを引き受けているのは作品ではありません。サークル、つまり作り手です。作品は判断の対象ですが、判断の結果を受け取るのは、その作品を出した人や集団のほうです。

■ 慎重さは作品ではなくサークルに宿る

サークル単位で観測していると、この非対称がはっきり見えてきます。ある作り手が二次創作と一次創作をどう配分しているか、扱う原作をどう選んでいるか、どこで発表しているか。こうした選択は、作品を1本ずつ見ていても読み取れません。継続的にそのサークルを追って、はじめて輪郭が出てきます。

そしてその選択には、たいてい理由があります。法的な保証のない場所で長く活動を続けている作り手は、何らかの形で自分なりの線を引いています。その線がどこにあるかは、活動の履歴のほうに表れます。

■ 読者にできるのは、判定ではなく観測

読者の立場で、ある作品が適法かどうかを判定することはできません。事実関係も権利者の意思も、外からは見えないからです。判定しようとすること自体が、たぶん筋の悪い試みです。

できるのは観測です。制度としてどうなっているかを正確に知り、そのうえで作り手が置かれている条件を理解する。この記事がやったのも、それだけです。作品を裁くのではなく、作り手が立っている場所を見るサークルを単位に同人を読むというのは、法の話においてもそういうことだと考えます。

まとめ:制度が言っていることと、言っていないこと

制度の側ではっきりしているのは、TPP11協定の発効に伴う著作権法改正が2018年12月30日に施行され、著作権等侵害罪の一部が非親告罪化されたこと。その非親告罪化には3つの要件がすべて必要で、同人誌などの二次創作は「原作のまま」という要件を満たさないため対象外になると考えられていること。以上は所管官庁の公式解説に記載があることです。

一方で、制度が言っていないことがあります。個別の作品が適法かどうか、そして権利者が実際にどう動くつもりなのか。この二つは、条文にも公式解説にも書かれていません。前者は個々の事実関係の問題であり、後者は権利者本人の意思の問題だからです。二次創作をめぐる不安の大半は、法律が黒だと言っている領域ではなく、法律が何も言っていないこの領域に置かれています。制度を正確に読んでも不安が消えないのは、そのためだと考えられます。

そして最後に、もう一度。この記事は法的アドバイスではありません。特定の行為が合法か違法かについて、一言も判断していません。判断が必要なときは、記事ではなく、法令そのものと専門家に当たってください。この記事が提供できるのは、その前段にある地図だけです。


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