画像生成AIが同人の現場に入ってきてから、数年が経ちました。この話題は賛否がはっきり分かれ、議論は今も落ち着いていません。本記事はその賛否に立ち入らず、「プラットフォームが実際にどういう表示ルールを敷いたのか」という制度側の事実だけを追います。そして、その制度がサークル単位で同人を追う人の視界をどう変えたかを観測します。
なお、この領域は動きが速く、規約は数か月単位で書き換わります。以下はすべて2026年7月時点で確認できた範囲の話であり、読まれている時点では変わっている可能性が高いことを先にお断りしておきます。本文では、公式告知を根拠にできる事実と、そこから読み取れる構造の話を、区別しながら書きます。
まず、この記事が扱わないこと
AIイラストをめぐる論点は、大きく分けて三つあります。学習データの是非という法的・倫理的な論点。作り手の職が奪われるかという労働の論点。そして、生成物を作品と呼べるのかという創作論の論点です。
いずれも重い問いですが、本記事はどれにも答えを出しません。理由は二つあります。ひとつは、これらの論点に決着がついていないこと。もうひとつは、本サイトが賛否を主張する場ではなく、観測を積む場だからです。どちらかの側に立った瞬間、記録としての価値が落ちます。
■ 代わりに扱うこと
扱うのは、プラットフォームが公式に告知した表示ルールです。これは意見ではなく、公開された事実として確認できます。そして事実として確認できる範囲だけを書くなら、賛否のどちらにも寄らずに済みます。
結論から言えば、主要なプラットフォームは「禁止するか許すか」という二択を取らず、「表示を分ける」という第三の道を選びました。この選択がどういう構造を生んだのかが、本記事の中心です。
投稿プラットフォームは「自己申告+フィルタ」を選んだ
時系列で最も早い動きとして確認できたのは、大手イラスト投稿プラットフォームであるpixivの対応です。公式ニュースで確認できた範囲では、2022年10月31日に、AI生成作品の取り扱いに関する機能がリリースされています。
その内容は、おおよそ次の三点でした。第一に、投稿者が自分の作品をAI生成かどうか明示する機能。第二に、閲覧者側の設定で、検索結果や画面でのAI生成作品の表示を減らす機能。第三に、AI生成作品だけを対象にした独自のランキングです。ランキングの分離は2022年11月1日から、アプリでは同年11月7日から適用されたと告知されています。
■ 「自己申告」であることの意味
ここで重要なのは、公式の説明が「自分の投稿作品がAI生成作品かどうかを明示する機能」という言い方をしている点です。つまり、判別はシステムによる自動検出ではなく、投稿者本人の申告に依っています。
この設計は、それ自体が一つの態度表明です。AIで生成されたかどうかを外部から機械的に判定するのは、当時も現在も技術的に確実ではありません。確実に判定できないものを判定したことにして運用すれば、誤判定による不当な処分が必ず発生します。自己申告制は、その誤判定リスクを引き受けない代わりに、申告漏れや虚偽申告を構造的に許容する仕組みだと言えます。完璧ではないが、実行可能な落としどころです。
■ 定義の文言
pixivの告知で確認できた定義は、「制作過程のすべて、もしくはほとんどをAIによって生成された作品」というものでした。対象はイラスト・うごイラ・マンガ・小説・小説シリーズと記載されています。
「すべて、もしくはほとんど」という表現に注目してください。ここには明確な線引きがありません。AIで下絵を出して全面的に描き直したものはどちらか。背景だけAIならどうか。この曖昧さは怠慢ではなく、創作の実態がグラデーションである以上、線を引けないという正直な認識の反映だと読めます。そしてこの曖昧さこそが、後述する販売プラットフォームでの区分けの難しさに直結します。
販売プラットフォームは「棚を分ける」方向へ進んだ
投稿の場と違い、販売の場では話が変わります。作品が並ぶ棚は有限で、そこに何が並ぶかが直接的に売上に影響するからです。
公式のサービスインフォメーションによれば、大手同人販売プラットフォームであるDLsiteは、2024年2月21日に「AI生成フロア(全年齢)」と「AI生成フロア(成人向け)」を公開したと告知しています。
■ 二層構造になっている
確認できた構造は、単純な隔離ではありませんでした。告知の内容を整理すると次のようになります。
| 区分 |
置かれる場所(2024年2月時点の告知内容) |
| フルAI生成作品 |
専用の「AI生成フロア」で販売 |
| AI一部利用の作品 |
従来通り同人フロアで販売 |
| 女性向け/スマホゲームのAI生成作品 |
従来通り各フロアで販売 |
つまり、「全部AI」と「一部AI」で扱いが違い、さらにジャンルによっても扱いが違うという多層構造です。ここに、先ほどのpixivの「すべて、もしくはほとんど」という曖昧さが跳ね返ってきます。全部と一部の境目を誰がどう判定するのか。販売の場では、この境目が置かれる棚を決めてしまいます。
■ 読者側の除外オプション
同じ告知で、閲覧者側の機能も確認できました。同人フロアの「新着同人作品」コーナーで「AI一部利用作品を除く」にチェックを入れると、新着一覧から対象作品が除外されます。また、マイページの「表示NG設定」で「AI一部利用」にチェックを入れると、作品画像を非表示にできると記載されています。
この設計思想は、pixivのフィルタと同じです。プラットフォームは可否を決めず、決定権を読者に渡している。見たくない人は消せる、気にしない人はそのまま見られる。事業者としては、どちらの層も失わない構えです。
一度止まって、再開したという経緯
この「棚を分ける」対応は、最初から用意されていたものではありません。報道ベースで確認できた経緯として、DLsiteはかつてAI生成作品を独自基準で受け入れていたものの、2023年に入ってから、AI生成物を主体とするコンテンツの取り扱いを一時的に停止しています。
停止の理由として説明されたのは、「対策やガイドライン・ポリシーの整備が追いつかなくなってきている」という趣旨の内容でした。既存の作り手への影響も考慮した、とも伝えられています。そして約1年近い停止期間を経て、AI生成フロアという形で取り扱いを再開した、という流れです。
■ この経緯から読めること
ここから読めるのは、プラットフォーム側も答えを持っていなかったという事実です。禁止でも全面容認でもなく、まず止め、枠組みを作り、棚を分けて再開した。これは方針の一貫性という点では褒められた動きではないかもしれませんが、少なくとも「分からないので一旦止める」という判断を実際に下したという記録ではあります。
なお、再開時に「1サークルあたり月に登録できる本数の上限」が設けられたことは、複数の情報源が伝えています。本数そのものは情報源によって数字が食い違っており、再開後に調整された可能性もあります。2026年7月時点の正確な値が必要なら、公式ページを直接見るのが確実です。
ここで構造として意味を持つのは、数字よりむしろ「上限を設ける」という発想が採られたことのほうだと考えています。取り扱いを認めたうえで流量に蓋をする、というのは、可否の議論とは別の次元の判断です。この点は、次章のBOOTHの告知と並べると読みやすくなります。
「AIだから」ではなく「量産だから」という規制の理由
もう一つ、公式告知で確認できる興味深い対応があります。クリエイター向けマーケットプレイスであるBOOTHが2023年5月16日に出した告知です。
この告知で禁止対象として挙げられていたのは、たとえば「写真と見紛うようなR-18画像をイラスト集・CG集として出品する」といった行為でした。そして注目すべきは、その理由の書き方です。
■ 理由が「AIの是非」ではない
告知が挙げていた理由は、「同一の制作技術を用いたことによる他と差別化されていない作品」が並ぶこと、「成果物の独自性が薄く」他の創作物の発見を妨げること、といった趣旨のものでした。措置として、該当するショップの全出品物を検索結果に掲載しない、という対応が示されています。
ここで規制の根拠になっているのは、AIを使ったかどうかそのものではありません。似たものが大量に並ぶことで、マーケットプレイスとしての発見機能が壊れるという、極めて実務的な理由です。
この視点は重要です。プラットフォームが困っているのは「AIが使われたこと」ではなく、「棚が同じようなもので埋まること」だという読み方ができます。もし人間が手描きで似たようなものを大量投入したとしても、同じ問題は起きるはずです。前述の登録本数の上限も、同じ発想の延長線上にあると読むのが自然でしょう。ただしこれは筆者の解釈であり、各社がそう説明しているわけではありません。
読者側の受容は、制度の側から間接的に読む
ここまではプラットフォームの話でした。では「読者はAIイラストをどう受け止めているのか」は、どこまで言えるのか。この問いは、制度の話よりずっと足場が弱くなります。
生成AIと購買行動を扱った一般消費者向けの調査はいくつもあります。ただそれらは、成人向け同人という限定された市場の購入者を測ったものではありません。この市場は母集団の輪郭がそもそも不明瞭で、購入は匿名に近い形で行われます。アンケートという手法がいちばん効きにくい領域だと言えます。個人ブログやQ&Aサイトには「AI作品は売れない」「絶対に買わない」といった記述が見られますが、これらは母数も抽出方法も不明で、事実として引用できるものではありません。
■ 可視的な声は、市場の縮図ではない
ネット上の可視的な声は、否定的な意見のほうが目立ちます。しかしこれは「否定的な人ほど発言する」という選択バイアスで説明がつく現象でもあり、実際の購買行動と一致している保証はありません。黙って買っている層は観測にかかりません。
ですから、目に入る声の量から「同人読者はAIを拒否している」とも「実は受け入れている」とも、言い切ることはできないと考えています。声の大きさは、市場の大きさとは別のものです。
■ ただし、制度から間接的に読めること
とはいえ、全く何も読めないわけではありません。プラットフォームが「見たくない人が消せる仕組み」を実装したという事実自体が、一つの情報です。
事業者はコストをかけて機能を作ります。誰も求めていない機能は作りません。除外チェックや表示NG設定が実装され、ランキングが分けられ、フロアが分けられたということは、「AI生成作品を見たくない層が、無視できない規模で存在する」とプラットフォーム側が判断したことを示唆します。これは購入者アンケートより間接的ですが、事業判断という形で表れた、それなりに信頼できる観測です。
同時に、禁止ではなく分離が選ばれたという事実は、AI生成作品を買う層も無視できない規模で存在すると判断されたことを示唆します。売れないものを、わざわざ専用フロアを作ってまで置く理由がないからです。この二つは矛盾しません。市場が割れているとき、事業者が取る合理的な選択がまさに「棚を分ける」ことです。
サークル単位で見ると、何が読めるようになったか
ここまでの制度の話を、本サイトの視点──作品ではなくサークルを単位に同人を読む──に接続します。
表示ルールの整備は、副産物として「サークルがAIとどう付き合っているかが、外から見える状態」を作りました。申告が義務化され、フロアが分かれ、区分が表示されるということは、作品ページに作り手の技術的な立ち位置が刻印されるということです。
■ 作品単位では読み違える
作品を1本だけ見て「これはAIか否か」を判定しても、分かることは限られます。しかし同じサークルの作品を時系列で並べると、別のものが見えてきます。ずっと申告なしで来たサークル。ある時期から一部利用に切り替えたサークル。最初からAI生成フロアで活動しているサークル。その変化のタイミングと、その後の作風の推移が、サークルの選択の記録として残ります。
これは価値判断ではありません。AIを使ったから悪い、使わないから良い、という話をしているのではありません。作り手が何を選んだかは、その作り手を理解するための情報であると言っているだけです。制作コストをどこで削るか、何を人の手で残すか。その配分は、作り手の関心のありかを反映します。
■ 曖昧さは残る
ただし、この読み方には限界があります。前述の通り、判別は自己申告です。申告していないから使っていない、とは言い切れません。また「一部利用」の範囲は広く、背景をAIで出すのと、キャラクターの下絵をAIで出すのとでは、意味がまったく違うのに同じ区分に入ります。区分は情報を運びますが、精度は高くありません。読めるのは大まかな傾向までです。
それでも、区分がまったく無かった時期に比べれば、読める情報は増えました。プラットフォームが賛否を決めずに表示だけを分けたことの、意図しなかった副産物だと言えるかもしれません。
2026年7月時点でのまとめ
本記事で扱った事実を整理します。いずれも2026年7月時点で、公式ページ等の告知を根拠とするものです。
| 確認できた事実 |
時点 |
根拠の種類 |
| 大手投稿サイトがAI生成作品の自己申告機能・表示を減らす設定・独自ランキングを導入 |
2022年10月告知 |
公式ニュース |
| 大手マーケットが、量産され差別化されていない出品への措置(検索結果非掲載)を告知 |
2023年5月告知 |
公式アナウンス |
| 大手同人販売サイトが、整備の遅れを理由にAI生成物主体の作品の取り扱いを一時停止 |
2023年 |
報道(一次情報ではない) |
| 同サイトが「AI生成フロア(全年齢/成人向け)」を公開し、フル生成と一部利用で棚を分離 |
2024年2月告知 |
公式インフォメーション |
| 同サイトに「AI一部利用作品を除く」除外チェックと表示NG設定が存在 |
2024年2月告知 |
公式インフォメーション |
■ 「いつ時点の話か」を書かない記事は、この領域では有害になる
この領域の記事は、書いた瞬間から古くなります。フロアの構成は変わり、上限は変わり、区分の名前も変わります。2022年から2024年までのわずか2年で、ここまで書いてきた制度は何度も書き換わってきました。今後も同じでしょう。
だからこそ、「いつ時点の話か」を書かない記事は、この領域では有害になります。古い規約を現在形で書いた記事を読んで、作り手が規約違反を犯す可能性すらあります。
本記事は2026年7月17日の調査に基づいています。読者が実際に何かを判断する必要があるなら、その時点の公式告知を自分で確認してください。この記事はあくまで、制度がどう動いてきたかという構造の観測記録です。そして構造の観測は、細部の数値が変わっても、しばらくは有効であろうと考えています。
最後に一点だけ、意見と分かる形で書きます。プラットフォームは賛否を裁定しませんでした。禁止もせず、全面容認もせず、棚を分けて選択を利用者に渡した。これは逃げだという批判も、現実的な着地だという評価も、どちらもあり得ます。本記事はその評価を下しません。ただ、そういう構造が選ばれたという事実を、時点を明記して記録しておきます。