【イクメン専業主夫の性堕ち日誌 #1】妻の出張中、ママ友の人妻が手料理を持って来た夜〜堕落の始まる、無防備な訪問〜

夜、人妻が手料理を持って訪ねてきた——湯気の立つ保存容器と湯呑みの比喩

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。18歳未満の方は読めません。

藤宮悠(ふじみや ゆう)の肩書きは、いちおう「小説家」だ。いちおう、というのは、五年前に文芸誌の新人賞で佳作をもらったきり、本の一冊も出せていないからで、書店に自分の名前が並んだことは一度もない。妻の玲子(れいこ)が課長に昇進した去年の春から、悠は在宅で原稿を書きながら、四歳の娘・ひなの送り迎えと家事のほとんどを引き受けている。世間的にはたぶん、専業主夫と呼ぶのが正しい。

住まいは、住宅街の外れの小さな戸建て。玲子のローンで建てた家だ。少し歩くと、住宅地には不釣り合いなほど木の茂った公園がある。悠は毎日そこにひなを連れて行き、娘が砂場で山を作るのを眺めながら、ベンチでノートを開いた。書けない日のほうが多い。それでも悠は、人の集まる場所にいるのが好きだった。深みのある小説を書くには、いろんな人の人生に触れないといけない——それが、売れない作家の言い訳めいた持論だった。

“いい旦那さん”と、気にかけられて

その公園で、悠はよく同じ保育園のママたちと顔を合わせた。最初に話しかけてきたのは、ひなと仲のいい遥(はるか)ちゃんの母親、相沢麻衣(あいざわ まい)だった。三十四歳。夫が転勤の多い仕事で、月の半分は家にいないという。

「藤宮さんって、平日のこの時間にいつもいますよね。お仕事、大丈夫なんですか?」。悪気のない問いに、悠が事情を話すと、麻衣は少し驚いた顔をした。「奥さんがお仕事で、旦那さんが家のことを。……えらいなあ。うちの人なんて、休みの日でも指一本動かさないのに」。それから彼女は、悠を見る目つきを、ほんの少しだけ変えた。珍しいものを見つけた、というような目だった。

その日から、麻衣はよく悠を気にかけてくれるようになった。あそこのスーパーのほうが野菜が新しい、この時間なら惣菜が半額になる。男手ひとつで毎日の献立は大変でしょう、と、使い込まれた時短レシピの本を貸してくれた。「男の人が一人で抱え込むことないですよ。周りを頼っていいんです」。その言葉に、悠は素直に助けられた。玲子の帰りが遅い日が続いて、正直、少し参っていた頃だった。

やがて悠は、ママたちのランチ会にも、時々顔を出すようになった。男が一人混じることを、彼女たちは面白がりこそすれ、嫌がらなかった。子ども同士を一緒に遊ばせ、妻・玲子の残業が長引く夜には、ママ友の麻衣や他のママの家で、ひなと一緒に夕飯をごちそうになることもあった。温かい家庭料理と、賑やかな子どもの声。悠にとって、それはありがたい時間だった。

妻の玲子は、そのことを喜んでいた。「いいじゃない、そういうの。ひなにもお友達がいて、あなたも一人で抱え込まないで済んで」。彼女は自分の仕事に没頭していて、夫が地域の輪に馴染んでいくことを、まっすぐに歓迎していた。夫の周りに女性ばかりがいることの意味を、玲子は少しも疑っていなかったし、想像すらしていなかった。悠自身も、この頃はまだ、その好意を、ただの親切として受け取っていた。

席が狭いだけ、と思いたかった

それが少し揺らいだのは、数日前のことだ。麻衣の家で、何人かのママが料理を持ち寄る、ささやかな食事会があった。長いベンチタイプの椅子に肩を寄せ合って座り、悠のとなりは、麻衣だった。

話が弾んでいるうちに、麻衣の手が、悠の太ももに触れた。最初は、席が狭くて当たっただけだと思った。だが、それは一度きりではなかった。取り皿に手を伸ばすふり、笑って身をよじるふり——そのたびに、彼女の手は、悠の太ももや、手の甲に、そっと重ねられた。ほかの誰にも気づかれないように。けれど、悠にだけは、はっきりと伝わるように。

気のせいだ、と思おうとした。麻衣はそういうスキンシップの多い人なのだ、と。それでも、家に帰ってからも、太ももに残った手のひらの温度は、なかなか消えてくれなかった。妻の隣で眠りながら、悠はその感触のことを、何度も打ち消した。

その夜、彼女は一人で来た

その数日後の夜だった。妻の玲子は大阪へ二泊の出張。ひなを風呂に入れ、あとは寝かしつけるだけ、という二十一時過ぎに、インターホンが鳴った。

モニターに映っていたのは、ママ友の麻衣だった。片手に、料理を詰めたタッパーの袋を提げている。遥ちゃんの姿はない。彼女は、一人だった。

玄関を開けると、麻衣は少し照れたように笑った。「ごめんね、こんな時間に。うちの人、今週ずっと出張でね。遥も、うちの親のところに泊まりに行っちゃって。……今日、一人なの」。それから袋を軽く持ち上げてみせた。「いつもの感覚で、三人分も作っちゃって。一人で食べても味気ないし……ひなちゃんも食べやすい味付けにしたから、よかったら一緒にどう?」

ありがたい申し出だった。妻の玲子は出張中、悠は今夜、ひなの夕飯をどうしようかと考えあぐねていたところだった。それでも悠は、彼女を家に上げることを、ほんの一瞬、ためらった。あの食事会の、太ももに残った手の温度が、頭の隅をかすめたからだ。

けれど、断る理由は、何ひとつ見つからなかった。歩いて五分とはいえ、わざわざ料理を詰めて、夜道を運んできてくれた相手だ。玄関先で追い返すなんて選択肢は、どこにもなかった。麻衣は玲子とも顔見知りで、ひなの友だちの母親で——まさか、変なことなど、起こるはずがない。悠は自分にそう言い聞かせた。

「……ありがとうございます。じゃあ、少しだけ、お言葉に甘えて」。悠がドアを大きく開けると、麻衣は「おじゃまします」と、慣れた足取りで上がり込んだ。背後で、玄関のドアが、ことん、と静かに閉まった。

三和土で靴を脱ぐ麻衣を見て、悠はふと、彼女の化粧がいつもより薄いことに気づいた。すっぴんに見えなくもない。そして、コートの前がはだけた下から覗いていたのは、外を歩くにはあまりに無防備な、ゆったりとしたルームウェアだった。——その二つが何を意味しているのか、このときの悠は、まだ気づいていなかった。

(第2話へ続く)


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